- す
- I
す(1)五十音図サ行第三段の仮名。 歯茎摩擦音の無声子音と後舌の狭母音から成る音節。(2)平仮名「す」は「寸」の草体。 片仮名「ス」は「須」の末三画の行書体。IIす(助動)〔上代語。 四段・サ行変格活用の動詞の未然形に付く〕軽い尊敬の意を表す。 また, 親愛の情をこめて言い表す場合にも用いられる。
「この岡に菜摘ま〈す〉児家告(ノ)らせ名告ら〈さ〉ね/万葉 1」「草枕旅宿りせ〈す〉古思ひて/万葉 45」
〔(1)「思ふ」「聞く」「知る」などの語に付く場合には「思ほす」「聞こす」「知ろす」などとなる。 (2)四段・サ変以外の動詞にも付くが, その場合, 「着る(上一)→ けす」「見る(上一)→ めす」「寝(下二)→ なす」などの形となる。 (3)中古以降は, 「あそばす」「おぼす」「きこしめす」など, 一語の動詞の中にその跡をとどめている〕IIIす(助動)〔現代語の助動詞「せる」の古語形。 四段・ラ行変格活用・ナ行変格活用の動詞の未然形に付く〕※一※使役の意を表す。(1)動作を他にさせる意味を表す。 …せる。「今宵かかることと, 声高(コワダカ)にものも言は〈せ〉ず/土左」「そこなる人にみな滝の歌よま〈す〉/伊勢 87」
(2)動作・作用が行われることを許可する, あるいはそのまま放任する意を表す。 そのままにする。 …せておく。「かの花は失せにけるは。 いかで, かうは盗ま〈せ〉しぞ/枕草子278」「あわてて船に乗て内裏を焼か〈せ〉つる事こそ安からね/平家 11」
(3)鎌倉時代の武士言葉で, 受け身の意であるところを自身の意志による行為であるかのごとくいう。 …させておく。「兄弟二人あるものが, 兄を討た〈せ〉ておととが一人残りとどまたらば, 幾程の栄華をか保つべき/平家 9」
※二※敬意を表す。(1)(尊敬の意を表す語を下に伴って)尊敬の意を表す。「うへおはしますに, 御覧じていみじう驚か〈せ〉給ふ/枕草子 9」「夜ふけぬさきに帰ら〈せ〉おはしませと申せば/源氏(夕顔)」
(2)(謙譲の意を表す語に付いて)謙譲の意をさらに強める。「みにくき顔うち笑みて, 申さ〈せ〉侍らむとて立つを/源氏(橋姫)」「藤三位の局に, 蓑虫のやうなる童の大きなる, 白き木に立文をつけて, これ奉ら〈せ〉むと言ひければ/枕草子 138」
〔(1)「す」は「さす」と接続の上で相補う関係にあり, 上下二段・上下一段・カ行変格・サ行変格の動詞には「さす」が接続する。 (2)「す・さす」は, 上代に多く用いられた「しむ」に代わって, 中古以降に広く用いられた。 ただし, 漢文訓読系の文章には用いられず, もっぱら和文に用いられた。 (3)使役の意の場合, 中世末から近世にかけて, 四段化した例も用いられた。 「いやお前は打た〈さ〉れぬ/浄瑠璃・菅原」「出すものだかひつこま〈す〉物だか, おいらにもわからねえのだ/滑稽本・七偏人」〕IVす(間投助)〔近世江戸語〕文末(まれに文中)にあって, 軽い確認の気持ちを表す。V「かういい心持ちに酔つたところを湯へ入つて醒すは惜しいもんだ~/滑稽本・浮世風呂 4」「はて湯のふりで稽古に行つて~, 銅壺の湯で手拭をしめして帰(ケエ)る人のやうにやあいくめえ~/滑稽本・素人狂言紋切形」
す【州・洲】土砂が堆積して陸地のようになり, 水面から出ている所。 砂州(サス)。VIす【巣・栖・窼】(1)鳥・獣・虫が卵を産み, あるいは子を育てる所。 また, こもりすむ所。「ツバメが~をかける」「~につく」
(2)人の住む所。 すみか。「愛の~」
(3)よからぬ者がたむろする所。(4)クモが張った網。~をく・う(1)巣をつくる。 巣くう。「鶯の~・ひそむる梅の花/高光集」
(2)ある考えが心の中に根づく。 巣くう。VIIす【為】⇒ するVIIIす【簀】割り竹や葦(アシ)を糸で粗く編んだもの。IXす【簾】すだれ。 みす。X「はしの~まきあげて/蜻蛉(中)」
す【素】※一※ (名)他のものが付け加わらず, そのものだけの状態。「~のままの顔」「姫はいつも~なる底深き目なざしもて/浴泉記(喜美子)」
※二※ (接頭)(1)名詞に付く。 (ア)他のものがまじらずそのものだけ, ありのままであることを表す。「~顔」「~肌」「~うどん」「~泊まり」(イ)みすぼらしい人, 平凡であるなど軽蔑の意を添える。 「~町人」「~浪人」
(2)形容詞などに付いて, 普通の程度を超えている意を添える。XI「~早い」「~ばしこい」
す【酢・醋】酢酸を含む, すっぱい液体調味料。 古来, 酢酸菌による酒の発酵によって作った。 米・果実など原料によって風味が異なり, 合成酢もある。 殺菌力・防腐力が強い。 食酢。「~漬け」「三杯~」
→ 酢酸~が過・ぎる物事の程度が超える。「すいの口から~・ぎた/洒落本・玉菊灯籠弁」
~でさいて飲・むいちいち欠点をあげたてることのたとえ。「めをとの衆が此の今を~・むやうに, 言ひたいがいに言ひこめて/浄瑠璃・卯月の潤色(中)」
~でも蒟蒻(コンニヤク)でもどうにも手に負えないことにいう。 どうにもこうにも。「新造の癖に~いけた奴ぢやない/歌舞伎・飛馬始」
~に当て粉(コ)に当て「酢につけ粉につけ」に同じ。「~一日此事いひやまず/浮世草子・五人女2」
~につけ粉(コ)につけ何かにつけて。 酢に当て粉に当て。 酢につけ味噌につけ。「これおやじ, そなたはお花が継父(ママテテ), ~憎いのもことはり/浄瑠璃・長町女腹切(中)」
~にも味噌(ミソ)にも「酢につけ粉につけ」に同じ。「~慰みにも, 是を年中にもりつけて/浮世草子・一代女 5」
~の蒟蒻(コンニヤク)の〔「四の五の」をもじった語か〕何のかの。 あれやこれや。「とかく~といつて受けとりませぬ/黄表紙・孔子縞于時藍染」
~を買・ういらぬ口出しをして怒らせる。 また, 扇動する。 酢を乞う。 [日葡]XIIす【馬尾】(1)馬の尾の毛。 細工に用いるときの称。 ばす。(2)馬の毛などを縦横に編んだもの。(3)〔(1)を用いたところから〕釣り糸。XIIIす【鬆】(1)時期を過ぎた大根・牛蒡(ゴボウ)などや, 煮すぎた豆腐などの内部にできるすき間や穴。「~の入った大根」「~が立つ」
(2)鋳物の内部にできた空洞部分。 鋳型に流し込んだ金属が冷却・凝固する際, 空気が内部に閉じ込められて生ずる。
Japanese explanatory dictionaries. 2013.